技術士二次試験 選択科目Ⅱ-2対策
前回までで3枚論文を二つこなしたところですが、今回は、選択科目2について考えてみたいと思います。ただし、今回はいきなり解くことはしません。
はじめに
前回までは、まずは時間内に構成を固めて、論文自体を意図通りにするところまでくらいは感覚をつかみたいと考え、必須科目1と選択科目3の論述をそれぞれ2時間以内に回答を作成してみました。
自己添削でもまあまあなボリュームの添削。方針を固めるためにも早めに添削をお願いしたいところですが、もう少し論述慣れが必要そうです。余りにも散らかった論文では評価自体が難しいでしょうし、アドバイスをくださる方にご迷惑ですからね。
そういった点も含めて、今回は選択科目Ⅱ-2を通じて試験の出題意図や方式について少し考えてみることにしました。
フレームワークの必要性
さて、選択科目2に取り掛かる前に、方針を考えることにしました。
何故かというと選択科目2-1は技術説明にあたり、選択科目2-2はいわゆる計画書・手順書・要領書を作るような課題です。こういった定型的な答案を作成する課題は恐らくフレームワークが有効です。
フレームワークと言うのは、本来は様々な表現方法がある不定形な対応を要求される物事に対して、出題の要求に沿った形でアウトラインを決め、仕組みを作ってから対応する業務方法のことです。簡単に言うと、穴埋め問題を作ってから回答を埋めるようなやり方になります。
ただし、選択科目2-1の技術説明は、出題傾向から技術マップを使って学習範囲を確認するのが先だと思いますので、一仕事してからの方がよさそうです。
今回は選択科目2-2です。必須科目1や選択科目3に比べて、ある程度アウトラインを作ることができそうなので、今回はいきなり解答を作る前にどういう作法で攻めるべきか考察してから解いてみます。
選択科目2-2の出題構成を調査する
出題構成は、近年の出題は頭書の条件が異なるだけで、概ね以下のとおり
頭書:背景、業務目的、条件及び解答者の立場
設問(1):調査、検討すべき事項とその内容
設問(2):留意点、工夫点を含めた業務手順
設問(3):効率的・効果的に進めるための関係者調整方策
出題構成が固定されていることから、出題構成と共に評価方法(採点基準)が定められ、採点のブレ幅をできるだけなくし、作問委員と採点委員の手間を減らすことにあると推察できます。
例えば作問を業務として発注する場合、業務内含めるか発注仕様にするかは別としても、内容やテーマと別に出題構成と評価方法があらかじめ作られるはずです。現に、出題構成が近年固定化していることを鑑みると、評価方法(採点基準)についても予め定められていると考えらえます。
そうすれば、作問委員はテーマだけを審議すればよいということになり、会議そのものも合理化できます。
なお、巷では5年ごとに試験方法が改訂されていると噂されていますが、文部科学省の技術士試験分科会の議事録を見るとそんな予定はありません。制度検討特別委員会での第二次試験適正化検討作業部会において、国際資格との国際的な実質的同等性の確保の観点から平成26年度に試験の改正が決定し、反映されたのが平成30年度からという経緯があり、ここ数年、試験方法に関するテーマは審議されていないため、マイナーチェンジは別としても当面同様の出題構成での試験が続くものと考えられます。
当然ですが、「技術士試験というのは、技術士としての適性があるかを見定める試験」なのですから、真の合格基準というのは、技術士としての資質を満たしていることに他なりません。
よって、評価方法(採点基準)としても同分科会の国際的通用性検討作業部会の答申が評価基準に大きく影響を与えているはずであり、技術者資格としての国際的同等性を確保するという趣旨から、方向性としては国際的に共通したコンピテンシーと、CPD制度の変更により対応しているところですので、当面技術士としての評価基準もコンピテンシーに沿ったもの、ということになります。(CPDの評価は難しいですが、陳腐化した専門知識を書いていないか、面談で学会などに参加していないか、などの演繹な方法で評価されているのではないでしょうか。)
このあたりは、2014 年 9 月「技術士に求められる資質能力」の解説」をしっかりと読んでおくのが良さそうですね。
以上から、令和6年度技術士二次試験実施要項によると、選択科目2-2で要求されるコンピテンシーは専門的学識 コミュニケーション マネジメント リーダーシップ の4つ。これらについて有効な対策をとれば選択科目2は対応可能であると考えます。無論、前回までで撃沈した必須問題1、選択科目3も対応したコンピテンシーでの回答とする方向で良いものと思います。
4つのコンピテンシーの概要
さて、コンピテンシーについて評価されることが分かったところで、より詳細な確認を行います。受験の手引きによると、4つのコンピテンシーは以下の通りの説明となっています。
なお、海外での業務を行う場合については一旦グレーにしていますが、「現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること」、「多様な価値観や能力を有する現地関係者と共に」という点は、国内の業務においても求められる資質ではないでしょうか。
専門的学識
1) 技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務に必要な、技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識を理解し応用すること。
2) 技術士の業務に必要な、我が国固有の法令等の制度及び社会・自然条件等に関する専門知識を理解し応用すること。
マネジメント
1) 業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、品質、コスト、工期(納期)及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的として、人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。
コミュニケーション
1) 業務履行上、口頭や文書等の方法を通じて、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等多様な関係者との間で、明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
2) 海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
リーダーシップ
1) 業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害等を調整しとりまとめることに努めること。
2) 海外における業務に携わる際は、多様な価値観や能力を有する現地関係者と共に、プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。
コンピテンシーと採点基準の関係
次に、設問とコンピテンシーの対応です。
論述では多様な回答方法が考えられ、コンピテンシーは全体として評価される項目でなければいけないため、設問のどこで満たしても構わないはずです。即ち、設問ごとの評価項目にコンピテンシーが設定されているとは考えにくく、「論述の妥当性」のような、論文全体の出来に関する評価項目が別にあると考えられます。
仮に僕が採点ルールを決めるとしたら、設問ごとに5点ずつ配点し、全体でも5点、合計3×5+3=20点とします。もちろん、設問ごとに加重配点し、全体を減点項目に入れる方法も考えられますが、テーマによって重要度が異なるため、テーマごとに配点を調整しなければならず、作問の難易度が上がってしまいます。
どこに記述してもよいとはいえ、回答時にコンピテンシー上の漏れがないようにするのが回答側としては都合が良いので、コンピテンシーをどこに盛り込むかはある程度フレームワーク化して固めることにします。
設問(1):調査、検討すべき事項とその内容(専門的学識・マネジメント)
設問(2):留意点、工夫点を含めた業務手順(専門的学識・マネジメント)
設問(3):効率的・効果的に進めるための関係者調整方策(リーダーシップ・コミュニケーション)
もちろん、この組み合わせでないといけないということはありません。例えば、留意点や工夫点にコミュニケーションに関わるものがあることだってあるはずですし、関係者との調整において、専門的学識を求める場合もあるでしょう。
とりあえず、この構成をもとに、次は設問ごとの回答を考えていきたいと思います。
設問ごとの回答方針
1.調査、検討すべき事項とその内容
「「技術士に求められる資質能力」の解説」の問題分析からその解決策の提案に至るプロセス の中では
問題⇒内容明確化・調査⇒分析⇒解決選択肢の検討⇒評価⇒判断・選定⇒解決策の提案・改善
と書かれており、今回の回答でもこのフローに沿って記述できる場合には意識するのが得策であることはわかる。
しかし、はっきり言って実務では、調査とか検討とかに類する用語が似たような意味合いで使われており、そうそう意識して区別してないところではないだろうか。総務省の資料でも、調査検討を一つの四字熟語のように扱っており、内容を見ても区別しているふうには見えない。多くを見ても概してそういうもんだと思っている。ただ、調査したら検討するし、検討するときには調査が伴うように、調査と検討に関しては前後関係が明らかであるように思う。
よって、論述する場合には、段階として調査が先で、検討が後であると、きちんと区別して記載することが求められているのではないだろうか。
これは段取りとして後段に来るが調査である、これは前段にあるが検討であると悩むよりも、作業の段取りとして分けて記述したほうがスマートに見えるのではないだろうか。
1.1調査すべき事項
ということで、調査すべき事項には、専門知識に関する調査事項を記載することにした。コンピテンシーを踏まえると以下のような項目が考えられる。
・「技術部門全般」に関する専門知識
・「選択科目」に関する専門知識
・「法令等の制度」に関する専門知識
・「社会・自然条件等」に関する専門知識
これらを応用することとは、一つに調査すべき事項を、専門知識を踏まえた根拠をもって説明できることであると推察する。採点ポイントとしては、概念として理解していることを示すために、何故、調査が必要かを明言しつつ文章中に用語として登場させることが要件であると思う。そういう事情からすると、
「( A )のため、( B )を調査する。」
A:調査する根拠
B:先に挙げた専門知識
というようなテンプレが考えられる。
ちなみに、項目がどうしてもできない場合は、後に述べる検討事項の要求事項(品質、コスト、工期(納期)及び生産性とリスク対応)を書いてしまってもよいと思う。
1.2検討すべき事項
検討すべき事項では、先の調査と区別するため、事実に対して評価が必要となる項目について記載することと定義してみた。
回答案としては、
「( 検討する根拠 )のため、( A群 )に係る、( B群 )の’( C群 )について検討する。」
A群:製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等
B群:品質、コスト、工期(納期)及び生産性とリスク対応
C群:必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等
2.留意点、工夫点を含めた業務手順
業務手順には端的には成果物を目的とした業務手順を記載する。
しかし、業務の進め方については、様々な切り口があるだろう。もちろん、実務に基づいた標準的な手続きを記述しても良いが、そもそも、たった2枚しかない答案に、手続きの全てを網羅することは不可能なはずである。まして、留意点を記述するような細分化した手順を記述することは到底無理なのである。
したがって、書き方としては次のような三段程度に区分した項目分けが適当ではないだろうか。
2.1業務手順1_____段階
2.2業務手順2_____段階
2.3業務手順3_____段階
区分の例としては、(調査、基本設計、詳細設計)、(実施設計、施工、検査)などが考えられる。
2.1留意点についての記述方法
なお、論述試験として肝要なのは「留意点や工夫点を記述せよ」という部分にある。実際には、どんなに基礎調査や現地調査が重要で時間をかける必要があるとしても、留意点や工夫点が無いのであれば記述する意味がほぼない。(もちろん、重要なりの意味合いがあるとは思うが。)
令和元年から令和5年までの選択科目2-2の出題10件の内容を確認してみると、全てが計画に関わる業務の想定であり、工事計画として記述できる問題が多い。近年は保全計画なども挙げられているが、長寿命化計画、ストックマネジメントの観点から工事へ繋げられるため、工事に関しての留意事項を抑えておくのが回答しやすいはずである。
この留意事項については一級電気工事施工監理の技術的課題を記述すればよいので、大きく分けて「労働災害を防止するための対策」「電気工事の施工における対策」「適正な品質を確保するための方法」「災害水害塩害防食防爆に対する対策」を記述するのがスマートではないか。
本文の留意点についての書きぶりとしては一例として以下の通り。
( A )のため、( B )を行う。
その際、( C )のため、( D )に留意する。
A群:施工目的
B群:工事の工種・作業内容等
C群:労働災害を防止、電気工事の施工対策、適正な品質確保、災害水害塩害防食防爆対策
D群:対応した対策
2.2工夫点についての記述方法
本文の工夫点についての書きぶりとしては一例として以下の通り。
留意点・工夫点とは、悪化させない方策が留意点であり、向上させる方策が工夫点であると解釈して記述すると、記述しやすい。なお、工夫点については、留意点と同じく施工監理について記述しても良いが、ここでは明確に区別してコンピテンシーに配慮してマネジメントについて記述する。
マネジメントの記述は、
( A )の理由から、( B )について対応するため、
( C )を( D )に応じ配分するよう工夫する。
A群:マネジメントの必要な理由
B群:品質、コスト、工期(納期)、生産性、リスク対応
C群:人員・設備・金銭・情報等の資源
D群:必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等
例えば
「営業補償の関係から工期調整が必要になるため、営業時間外に工数(人員)を多めに配置するよう工夫する。」
というような形になる。(あまり適切な例ではないが)
語尾が「工夫する」となるよう記述するには技術が必要だが、なるべく留意する。
効率的・効果的に進めるための関係者調整方策
関係者との調整方策は、どのような課題でも機械的に記述できる。
①多様な関係者を可能な限りリストアップする。
②それぞれについて、協力型グループと、非協力型グループに分ける。
③それぞれについてコミュニケーション手段を明示する。
④協力型グループには、明確なデザイン(=成果物の要求事項)を伝えるような記述をする。
⑤非協力型グループは、現場感覚(=主に法令等の制度や現場の自然条件)に基づいた、利害関係を調整する内容を記述する。(=マネジメントになる。)
⑥これと別に、特筆すべき対象者がいたら抜き出して記述する。
コミュニケーションの書き方について
コミュニケーション手段を記述するうえで大事なのは、「効果的な意思疎通」の部分である。「なぜ、その手段が効果的なのか」をきちんと書くことである。
基本的にコンピテンシーには「口頭や文書等の方法を通じて」と書かれているが、口頭がよい事例はあまりない。基本は文書ということになるだろうが、書面が良い理由は少し堅苦しいうえ、書面でやり取りするのはいわば普通のことであり、訴求力が弱い。
点数の取り方としては、写真や図面を説明に使うのが利口である。
「現状が把握できるよう、現場の写真を用いて」「施工前後の写真を用いて」「フォトモンタージュにより仕上がりがわかるよう」という記述が中心になる。
電気電子系に限れば、具体的な図面名称があるのもよい。技術的相談の場合、フロー図や、展開接続図、単線結線図、施工業者の場合は施工図や実態配線図などが用語として出てくるとおいしいのではないか。
あとは、QC七つ道具(パレート図、特性要因図、グラフ、ヒストグラム、散布図、管理図、チェックシート、親和図法、連関図法、系統図法、マトリックス図法、アローダイアグラム、PDPC法、マトリックスデータ解析法)、アプリ名(パワーポイント、フォトショップ、制作動画、Webページ)、事業名(住民説明会、問合せ窓口、相談ダイヤル)あたりがキーワードになるだろう。
また、会社の財務部門や銀行などのファイナンス系に対しては、財務諸表、貸借対照表や、事業計画書、など記述するのが良いのではないか。
総括
実際に、これらの内容が採点基準を満足するかは定かではないが、概ねこのような回答方針で論文に取り掛かりたいと考えている。
なお、この内容は添削を受け次第随時追記していく予定である。