渓のライフマネジメント日記

日々の活動と雑感をゆるゆると記録するところです。みんなHAPPYになっちゃえ。

緊急事態宣言の継続と出口戦略に向けて

緊急事態宣言が延長される見込みとなりました。これまでの施策をまとめ、今後のために活かされる形での施策を望みます。

 

 

 

緊急事態宣言の意味

 この宣言は、政府の専門家会議の提言、即ち新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月1日)に基づいて当初は4月7日に発出されたものです。

 しかし、7都府県に限定した結果、他の地域では自由に移動が可能となり、都市部以外でクラスターが発生するおそれがあり、医療提供体制が十分に整っていないまま、崩壊する懸念から、全国に拡大したというものでした。

 僕は当初、一度全国を対象に実施することで地域間の移動を制限し、基本再生産数Ro(basic reproduction number)の推計が容易になり、地域ごとに区分でき、地域区分の考え方に基づき都道府県ごとに規制することができるという考え方に基づいているものと思っていました。しかし、この宣言の要旨からすると実効再生産数は特に意識しておらず、クラスター対策のみが対象であったということに若干の違和感を覚えました。

 何故なら、「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言の図3.実効再生産数 日本全国、東京と東京近郊、大阪」)を参照すると、これらの地域ですら実効再生産数Rt(effective reproduction number)が3月中頃にかけては95%信頼区間で1を下回っていることがわかりますし、また地域区分についても触れているからです。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

 これはつまり、2月~3月 に東京都や大阪府で実施した活動自粛や、クラスター対策が十分に効果を発揮していたことを示します。以上の情報からだけでいえば、感染は緩やかに上昇するが、やがてピークを越え収束に向かうことになります。

 では、それでもなおクラスター対策を前提とした緊急事態宣言を必要とした背景は何か考えてみましょう。

 

ひっ迫する医療資源

 先ほど説明したように、実行再生産数Rt<1の場合は最終的には感染者は減少し収束します。(厳密には、抗体獲得者も増加するためRt>1であっても収束することもあります。)だとしても、新規感染者(陽性者)の実数が大きくなれば、収容する病床が不足し、長期化すれば医療資源の枯渇という危機が顕在化します。

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R0=1.0

 当時の専門家会議からの提言も

「いわゆる「医療崩壊」は、オーバーシュートが生じてから起こるものと解される向きもある。しかし、新規感染者数が急増し、クラスター感染が頻繁に報告されている現状を考えれば、爆発的感染が起こる前に医療供給体制の限度を超える負担がかかり医療現場が機能不全に陥ることが予想される。」

とあります。

 つまり、実行再生産数の目標値は医療資源、特に病床(占有)数(感染者数-退院者数)の極大値よりも低くなるよう設定が必要であり、その目標値は2週間程度でピークアウトし収束するRt=0.5程度だったのではないかと思います。また、しばしば取り上げられるPCR検査数ですが、陽性率、有病率とも一定を維持しており、検査実施率が悪いわけではないこともわかります。

 

東京都と国、それぞれのエビデンス

 クラスター対策については、当初は感染経路を把握しながら対応を続けていたものの、次第に経路不明者が多くなっていき、3月後半にはクラスターの特定が困難になっていきました。3月25日の時点で小池都知事は報道発表を開いており、このとき実行再生産数はRt>2.0を超えています。この会見後、感染者数は上昇に転じます。

 このとき、小池知事が緊急事態宣言を発出する段階であるという発言がありましたが、これは先に述べたように経路特定が困難になっており、クラスター対策が限界となっていることを前提とした発言なのです。

 一方、この時点では安倍首相はまだ緊急事態宣言を発出する状況ではないと説明していました。国としては、この時点では2週間前のコロナウイルスを抑制できている実行再生産数Rt<1の情報しか得られていません。2週間前の数値は事後評価としては有効ですが、施策判断のエビデンスには乏しいので判断の基準から削除したのではないかと思います。

 東京都は実施機関でしたので、経路不明者が増加するとクラスター対策が不可能になることを実感していたのでしょう。一方、国のほうはデータから有意な結果が得られないため経路不明者の割合については慎重だったのではないかと思います。Rt=2.0だとしても継続的なものではない可能性もあり、また基本再生産数R0はこの時点ではエボラの数値を当てはめて推定した算定値だったからです。

 つまり、両者の対応の食い違いにはベースとしている情報とその信頼性が異なることが考えられるのです。

 

7都府県の緊急事態宣言へ

 結果として、緊急事態宣言が発出された4月7日には経路不明の感染者が増加を続け、感染者数も増加の一途を辿ります。この時点で判明していた2週間前にあたる3月25日の東京都の実効再生産数はRt=2.7でした。2週間前のデータに基づいて判断しているとしても、専門家会議も提言しており、国としても看過できなくなったといえるでしょう。

 クラスターの早期発見はウイルスの爆発的まん延を効果的に抑制できていました。しかし、経路特定が難しくなると、クラスター対策が機能しなくなるということを国も課題として受け止め、対応することになったのだと思います。

 宣言の時点では全国の7都府県を除く道県では、実行再生産数はRt<1を達成できており大きな脅威ではなく、PCR検査についても十分な件数で実施できている。また、感染経路についても十分に特定できている。

 クラスター対策は十分な効果を発揮しているため、経路不明者を減少させることができれば対応できるだろう(=7都府県の活動抑制)、経路不明者は、作業スピードと感染者の増による作業スピードの問題であり、実量が減少すれば解消するであろうという結論になったのでしょう。

 だから、宣言の時点では実効再生産数に触れていなかったのだと思います。

 

全国に拡大したのはなぜ?

 4月10日、主要都市以外でも感染が広がっていることから全国に拡大するとしました。正直言って、この全国拡大には明確な意図が見えません。確かに他の地域でも実数地としての感染者の増はありますが、散発的なクラスターでした。

 7都府県を緊急事態宣言の特別警戒区域を指定したために、愛知や岐阜などを含む13都府県に集中し連鎖崩壊が懸念される、近隣自治体へ移動する者が増加し感染をまん延させたとの論もありますが、東洋経済のサイトで確認してもたった3日間では明確な増加の兆候は無く有意差はありません。

 3月25日時点で東京都のRt=2.7、全国のRt=2.0としていますが、このデータは4月7日時点で判明していた分であり、また、この全国の数値には指定7都府県、拡大予定の13府県が含まれてしまっています。これらを除外した他の地域は相当に低いのです。岩手県に至っては0です。僕は専門家ではありませんが、むしろ、感染症学的にはR0が極端に低いと抗体獲得者が減少してしまい、かえって感染が長引き、感染者が増加に転じてしまうのです。

 対策を全国に広めるのはわかりやすいですが、効果的ではないのです。

 いつもは、専門家の判断を踏まえ適切に判断すると言っていますが、専門家会議の見解は

「なお、現時点の知見では、子どもは地域において感染拡大の役割をほとんど果たしてはいないと考えられている。したがって、学校については、地域や生活圏ごとのまん延の状況を踏まえていくことが重要である。

 また、子どもに関する新たな知見が得られた場合には、適宜、学校に関する対応を見直していくものとする。」

 というものであり、全国一斉の休校については専門家のエビデンスを踏まえていないことがわかります。

 政府としては自粛措置を全国に拡大することで、一気に日本全国の感染拡大をピークアウトし、また布マスクの配布、給付金の給付と合わせてコロナウイルスの拡大を阻止を達成により、また抑圧からの解放状況を作ることで心理的にも政権のイメージアップを図るという政治的意図が少なからずあったとは思います。(東京都に後れを取り、東京五輪の継続に傾倒したイメージからの脱却が必要だったのでしょう。)

 それでも結果的に防ぐことができるのであれば良かったのですが、目論見が外れた形となりました。

 

それでも減らなかった感染経路不明者

 結果的に、4月27日まで緊急事態宣言による自粛、ICTを活用したビッグデータの分析結果によると、8割の減は達成したように思えます。それでも、目標としていた8割の接触減を達成しても、2週間以内のピークアウトはできませんでした。ここでも2週間という用語が出ていますね。

 では、なぜ達成できなかったのか、クラスター経路不明者の実数を減少していけば、経路不明者も減るに違いないという当てが外れたのは、この順序が逆であるからだと思います。つまり、感染者の増加によって経路不明者が一様に増加したのではなく、経路不明のクラスターがまん延を拡大させた結果、全体の感染者が増加しているということなのです。

 それは、政府専門家会議のカンファレンスですでに触れられており、日本感染症学会の理事長で東邦大学の舘田一博教授が発表した「医療や介護の現場で働く人や、接客業の人たちなどに、若い世代が多い」という発言。この後、業種別資料が提示されていますが、接客を伴う飲食店、バーやナイトクラブに経路不明者が最も多いということです。要は、風営法で規制されるようないかがわしいキャバクラやクラブなどという意味をかなりオブラートに包んだ発言なのだと思います。

 確かに、当初の宣言で帰省した7都府県には、共通して歓楽街が存在します。

www.news24.jp

 それらが経路不明の多くの根源だとすれば、現在真面目に活動自粛をしている人の大多数には関係がありません。若年層はほぼほぼ感染率が低く、学校の投稿自粛を全国に拡大したところで封じ込めできなかったのは当然です。

 そもそも、主要都市以外のコロナウイルス感染症は、散発的クラスターは発生しているものの全て経路が特定できており(大規模でも特定可能)、各都市別の実行再生産数Rtは相当に低い状況だからです。3月中頃までの東京都や大阪府と同様の対応で十分にまん延を防ぎきることができたものと思います。

 わざわざ全国に拡大などせず、提言どおりに、地域別、クラスター別の対応を実施すべきだったと思います。

 

出口戦略のための延長

 全国に拡大した緊急事態宣言は、一旦一律に規制した後、地域区分の考え方に基づき都道府県ごとに業種ごとに規制解除を実施していく出口戦略だと思っていました。しかし、一向に各地域や業種の区分に応じて調査をする気配が見えません。それどころか、これまで発表していた実行再生産数も発表しなくなってしまいました。

 全国民を巻き込んでクラスター対策に注力してきた手前、今更実行再生産数を指標にするとは言えないのでしょう。実行再生産数という言葉はこれまで一度も表舞台には出てきていません。それに、判断の難しかった7都府県はともかくとしても全国に拡大した理由と矛盾が生じることになります。

 ただし、このことを批判するつもりはありません。個別に緻密な判断をせよというのは、一国の首相といえど重荷だと思います。僕が同じ状況に置かれ、理屈上の判断を迫られても同じように行動できないのではないかと思います。

 

 これらの状況を考慮すると、今回の延長の理由が見えてきます。議論をクラスター対策から実行再生産数にすり替えるには、再定義が必要だからです。延長の理由として効果のなかったクラスター対策はフェードアウトしてもらい、実効再生産数を目標値として掲げる必要があるのです。こうすることで、初めて地域区分に基づいてウイルスの感染阻止が可能になるのです。

 感染まん延期と異なり、収束期にクラスタ別対策や地域指定を行うのはそう難しいことではないでしょう。

 

科学的根拠に基づいた政治を

 以上を振り返ると、4月10日の特別警戒区域指定の全国拡大が大きな判断ミスであったと思います。それまでは試行錯誤しながらも、専門家会議の科学的提言に基づいて施策を進めていたのですから、確かに思うような成果が上がらないもののその判断は十分理解のできるものでした。

 今回の延長宣言は、これまでの施策のミスを認め、出口戦略に至るための軌道修正であることが望まれます。そのためにも、科学的根拠に基づいた政治を進めてもらいたいと感じるところです。

  なお、本記事における施策の解釈は私独自のものであり、公的な見解とは異なるものもございますので、ご留意願います。

 

 

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